アルプスをつなぐ街で~八木たくまの伊那日記

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2017年 04月 16日 ( 1 )

東京DAYS

少し前のことになりますが、伊那の意外な知名度を知った話。

「兄さん、粋なことやってるねっ」
銀座NAGANOの日本酒イベントの翌昼、新宿区の境目にある神田川のほとりで、初老のオジサンに声をかけられた。無性に飲みたくなった僕は花見の人混みの中で、酒を傾けながら咲き始めの桜を眺めていた。

小さな旅が、僕の心をオープンにしていたのだろう。「チャキチャキの江戸っ子」という雰囲気のオジサンは、自然と隣に座ってくれた。
伊那から来た、と言うと、「伊那の勘太郎」のファンだという。

伊那は、新宿区の唯一の友好都市だ。オジサンは知らなかったらしく、伊那と新宿の縁を説明するとすごく喜んでくれて、ポケットから缶ビールを取り出したオジサンと話が弾んだ。

オジサンは、政治のことも詳しかった。
小池知事のことを「百合子ちゃん」と呼び、東京に吹く新しい政治の風や、若い世代の政治参加への期待感を聞かせてくれた。ものすごく勉強になる。

神田川は、花見スポットらしい。
若者グループ、親子連れ、外国人、犬、老人夫婦…。
お祭りのような人の流れを眺めながら、オジサンとの話は続いた。

オジサンは、極端に身長が低い。
背骨の病気で身長が伸びなかったようだ。
「ほら、俺は障害者だからさ」と言いながらも自身を卑下するわけでなく、前向きだった。

幼いころ、身長を伸ばすためのギブスを装着していたが、その辛さにギブスをはずして生きることを選んだという。それを許してくれた母親や、頑張ってランドセルを背負う自分を支えてくれた友人たちへの感謝の言葉に、オジサンの今の前向きさのルーツを感じた。

「背が低いだけなのに、雇用は障害者扱いさ」。
この国の障害者施策の貧困さにも話が及んだ。

例えば、莫大な費用をかけて設置が進む、駅ホームの視覚障害者転落防止用自動ドア。
「他人が声をかけないから、目が見えない人が落っこっちゃうんだよ」。

その通りだと思った。
他者を思うゆとりがあれば、金をかけなくても事故は防げるはず。
心のゆとり。
都会にいた時代の自分には、あったのだろうか。
今の自分はどうなのか。

オジサンはずっと、近くの都営住宅で母親と二人暮らしだったらしい。
毎年、春には高齢の母を車椅子に乗せて、この神田川の桜を見に来るのが恒例だったという。
その母は数年前の4月、他界したという。

「今もこの時期は、毎年ここに桜を見に来るんだよ」-。

すっかり暗くなり、酔っぱらった二人。
最後にオジサンは、がっちりと握手をしてくれた。

「八木さん、伊那の勘太郎になってくれよ」

そして、勘太郎月夜唄を朗々と歌いながら、すっかり暗くなった人混みの中を消えていった。

人生と思いが積み重なり、街は形作られている。
自分の中で遠かった東京が、少し近くなった。

伊那の勘太郎。
きちんと知ってみたいと思った。
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by yagitakuma | 2017-04-16 19:09 | 日々のよもやま | Comments(0)