アルプスをつなぐ街で~八木たくまの伊那日記

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伊那まちにある素敵なラーメン店の話

僕はそれほどラーメン好きではなかったんですが、伊那には素敵なラーメン屋さんがあります。伊那まちには、素敵な人がたくさんいます。思いがあふれる店、人。

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こってり豚骨が売りの、JR伊那市駅前の小さなラーメン店「原点」には毎夏、道行く人の目をひく巨大な横断幕が掲げられる。その理由について初めてじっくり話を聞いたのは、2015年の夏。ある野球部の夏が終わった翌日だった。

「横断幕、はずすぞ」
その日の朝、店主の酒井孝志さんが突然、妻のなみよさんに声をかけた。
「なに言ってんの!?まだほかの高校が残ってるじゃない!」

前日、店から近い県立弥生ケ丘高校の野球部が、夏の県大会初戦で姿を消した。春季大会ベスト8でシードを勝ち取り、「もしかしたら甲子園に」との期待が高まっていた。3年生エースを直前の練習試合の大けがで欠き、失意の敗退。店の前は、その野球部生の通学路だ。
「あいつら、ここを通るんだぞ。毎朝…」

酒井さんが高校野球を応援するようになったのは、15年ほど前。客の高校球児たちに、「たまには応援に来てください」と言われたのがきっかけだった。初めて訪れた練習試合で、その真剣さにのめり込むことに。夏は店を休んで応援に駆け付け、次第に勝ち上がる高校が出始めたころ、「本当に甲子園に連れてってくれるんじゃないかと」横断幕を作った。

「若いころは高校生たちにとって、俺たちがいちばん近い大人だったと思う。みんなよく来てくれたし、今では県内で監督やってる卒業生もいるよ」。店内の壁には、球場に掲げられた寄せ書きがずらりと並ぶ。

上伊那8校の夏が続く限りは掲げている店頭の横断幕を「下ろす」と言い出した酒井さんの脳裏には、10年ほど前、失意の夏を終えた後の球児の忘れられない表情がある。同じようにエースをけがで欠いて敗退した弥生ケ丘高校。そのエースの同級生が、学校に行かなくなった。毎朝店に立ち寄っては、黙ってテレビを見てどこかへ消える。それに寄りそいながら、球児たちの夏への熱い思いを感じた。「彼も今ではいい会社に入って、子供連れてくるけどね。前は、野球しかなくて夏が終われば何をしていいかわからなくなる子が多かった」と振り返る。
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店には今でも、連休になると元球児たちが行列を作る。不慮の事故で亡くなった元野球部マネージャーの母が、「球児たちに食べさせてあげて」と毎年寸志を届けに来る。

そんなつながりが今年2月、断ち切られそうになった。酒井さんが腰を痛めて店で動けなくなり、休業。医師の診断は「入院半年、完治まで1年」。伊那まちでは「もう無理らしい」との噂が流れた。入院の末、かろうじて動けるようになった頃には夏は間近だった。渋る医師を「家庭の事情が」と押し切り、6月に店を再開させた。

常連たちとの高校野球談議は再開したが、今年の上伊那勢は早々に敗退。「また甲子園が遠くなっちゃいましたよー。還暦までに連れてってくれないと、応援にいけないよ」と笑う。

この店ののれんをくぐると、夏が少し熱くなる。
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写真は昨年撮らせてもらったものです。
現在はまだ昼だけの営業ですが、ぜひ足を運んでみてください。
by yagitakuma | 2016-07-14 18:38 | 街のhappy news | Comments(0)